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  梧竹堂書話

  
   中林梧竹 原著 / 服部北蓮 解義   定価  (本体2,000円+税)
   A 5判 106頁  ISBN 978-4-8195-0261-0


   明治の三筆、中林梧竹の書論をわかりやすく解説。
   能書家の用筆と精神を教えてくれる名著です。
       
  

  

   序章 
       この梧竹堂書話は明治時代の能書家中林梧竹の書論と言われている。
       中林梧竹は名は隆経、字を子達、梧竹は号である。文政10年(1827)に
       肥前の小城町(佐賀県)に生まれ、大正2年(1913)に郷里で87歳の生涯
       を終わった。その間に中国の潘存に書法を問うなどのこともあったが、主と
       して東京銀座の伊勢幸洋服店に寄萬して書人としての生活をしておった。
       友人であった副島蒼海を通じて、皇室に献納したとつたえられる彼の書を、
       宮内庁の図書ォで、他の明治時代の書家の揮毫物とともに鑑賞したことが
       あるが、彼の作は断然光彩を放っていた。もっともこれには、御前揮毫という
       事情の下であったのとは違い鑑賞眼にすぐれた蒼海の選択を経た作品であ
       ったからであろう。
       さて、書法とか書論といわれるものは、中国にも日本にも多いが、これをはっ
       きり区別する事は困難で、多くは交錯しておる。しかし、大体において技術上
       の理論を述べたものを書法といい、その原理的な方法を主としたものが書論
       と考えてよいのではないか。したがって、書法では自家の流儀による具体的
       な説明が多く、それに対して、芸術に対する見解とか、あるいは理想といった
       ものを述べたものが書論で、これは特別な流儀にとらわれずに、書作上の精
       神的な問題を取り扱っている。この梧竹堂書話は後者に属するものである。
       書道を研究するものは、かつての能書家が、その体験によって書家の新操は
       かくの如しでありたいとか、このような理想で書の表現をしたいとか、また学習
       をすべきであるという説については、謙虚に耳を傾けなければならない。また
       鑑賞者も、書の芸術品は、いかにして生まれるか、それをいかにみるか、理解
       するかということを、このような書論によって知ることが必要ではあるまいか。
       私が、この書話を採り上げて講義を試みようとするのは、梧竹という人は、少年
       時代から87歳で没するまで、全く書道一途に生きぬいた稀な人物と考えたから
       である。こうした人のことばには価値のあるものが、多いと信じたからである。
       次に、多くの書論を通覧してみると、その人の学風なり、時代の思潮というもの
       が影響していることがわかるのであるが、この梧竹堂書話にも明治時代という
       日本書道の大転換期を背景にして、これが編成されているということは興味深
       いものがある。次にこの書話には、他の書論からの抜粋や、その思想にも換骨
       脱胎のところが多い。このことは一面では、これが梧竹の所論であるかとの疑
       問も生ずるが、また、一面から考えれば、他の多くの書論書を読んだことに担当
       するものが包含されているとも考えられる。それから、明治時代という比較的親
       しみやすい時代の著者という点からも、これを掘り下げて研究するということは、
       書に志を持つものにとって興味があると信じたからである。
       私は学生に講義をするつもりで本書を執筆したが、余話とある部分では、本文に
       関係のある事柄を敷衍し、かつ過去の書論などを紹介するようにした。この書話
       によって書の芸術性について理解が深まり、書学の研究に資するところがあるな
       ら幸福である。

          昭和41年6月          服 部 北 蓮

      


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